奈良市在住の門下生ジャーナリストで、ケアマネージャーをしております、だふね です。
11月21日のブログに引き続き、今回も介護保険の認定調査についてのお話をします。
「認知症による短期記憶障害」と「老化による物忘れ」は違います。認知症でない人でも、ふつうに「忘れること」はあります。
「芸能人の名前が、すぐに思い出せなくなった」
「ここに来たのに、『アレ、何しに来たんだっけ?』となる」
などは、皆さんが常日頃経験していることと思われます。「忘れた」自覚があるうちは、今すぐどうこうという心配は無用です。※1
※1 但し、自分で解決できないレベルになったと感じるならば、専門医を受診されることをお勧めします。(具体的には、火の不始末を起こしそうになった、物のしまい場所を忘れて代わりに誰かに探してもらうようになったなど。)
認定調査における「3点提示」(前回記事参照)も、「あとで訊きますからね」とさりげなく言い含めておくと、対象者も意識して覚えようとします。覚えて答えることは、案外誰でもできるのです。
しかし、「あとで訊きます」とか予告されない限り、ふつうは忘れちゃいますね。「時計、指、ペン」なんて、身の周りにあるごくありふれたもので、しかも3点の間に関連性はないですし。
5分経過して「え、あと1点、何だったっけ」となる人でも、「ある意図をもって訊かれたこと自体は覚えている。でも内容が思い出せない」であれば、単なる物忘れ(度忘れ)。誰にでも起こり得ます。
3つの品を示された出来事そのものを忘れているなら、記憶障害が疑われます。※2
※2 対象者の短期記憶能力の確認方法は、「3点提示」を実施するだけではありません。「調査直前に何をしていたか」と、対象者に直接質問をすることも必要で、答えられたか答えられなかったかなど、その時の様子も見ておくのです。
3点提示で正答できてもできなくても、「普段はどうか」について、調査員は後ほど立会者(主に家族)に、
「ご本人、日頃どうですか。5分前の出来事を覚えていますか?」
「ついさっき言われた内容、話した内容、何をしていたかなどを忘れてしまうとか、ないですか?」
などを必ず確認します。そのように改めて伺うと、
「(3点提示で)答えられなかったけど、普段は記憶について問題ありませんね」
あるいは逆に、
「(3点提示で)答えられてびっくりした。普段は何でも忘れてしまうんですよ!」
などと立会者が明かしてくれます。そこも含めて、調査員は報告書に上げるのです。
また、話の途中で立会者のほうから、
「食事したばかりなのに『ごはん、まだ?』とか、いつも何回も訊いてくるんですよぉ」
などと、ふとした拍子に漏らす場合があります。これを取っ掛かりにすれば、より詳しく聴き取ることも可能です。
調査ではたいてい、調査員は対象者と初めて会います。対象者の普段の人柄、言動、能力について、調査員も一回会って会話しただけではわからないもの。
対象者も「知らない相手に、何を訊かれるのかわからない」と緊張するので、平たく言えば「エエカッコ」しようとします。(このことは、ごく自然な反応です。)
だから調査員も、
「無理せず、普段どおりで。これができれば合格、できなければ不合格とかではないですから」
「あれこれ訊きますけど、どうかお気を悪くなさらず。決められた質問をするだけなので」
「気軽に答えてくださると、めっちゃ助かりますぅ」
という感じであらかじめ声をかけることで、なるべくリラックスした雰囲気でやりとりできるように心がけます。
それでも、対象者が普段できないことまで「できる」ように見せてくることはある。ゆえに、日頃から本人の身近にいて、様子を客観的に把握している立会者の聴き取りが、とても重要になってくるのです。
次回に続きます。
【だふね プロフィール】
昭和48年大阪生まれ。奈良市在住。主婦にして一男二女の母。ケアマネージャー。性格は‟慎重な行動派”‟陽気なペシミスト”(友人評)。コロナ禍が始まると同時に「関西ゴー宣道場設営隊(現・公論サポーター関西支部)」隊長就任。以後現場を持ちながら公論イベントの盛り上げにも尽力。公私ともに濃密な日々を過ごしている。
【トッキーコメント】
認知症による短期記憶障害と老化による物忘れは違うというのは、意識してなかったので勉強になりました。
それにしても、調査員の人は正確な状況を把握するために、観察力や質問のテクニックを磨いているのだなあと感心します。
プロの現場報告は奥が深くて面白い!
次回も楽しみです!